私達の行く先は天ではなかった。
第参話 本村愛華の場合②
九月二十日快晴で、今日は恐らく真夏日なのでしょう、燦々とした日が肌を強く刺すようです。
さて、改めて自己紹介をすると、私は本を読むことが好きです。
ですから、昼休みになると私は図書委員会の仕事がない曜日でさえ図書室の新刊を漁っています。
そんなわけで、今日の私もまた同様に新刊の物語を撫でては内容に一人、一喜一憂していました。
気が付けば予鈴がもう少しで鳴る頃……ということでさっと撫でた本たちの中でも気に入った本のバーコードを通します。
いつもの日常。そうあってくれたら一番であったのですが、施錠のために帰ってない人はいないかと確認しているところで奇妙なものを見つけてしまいました。
「女の子?」
名前はレンと言うそうで、この学校の関係者ではないそうです。
何故下の名前から名乗るのかと聞いても名字などは一切教えてくれませんし、
関係者でない人──しかも見るからに年下の子ども──と話しているというのはなかなかに不気味です。
あげく、彼女は自らを妖精と称しました。
しかし、私の心は既にこのフィクションのような雰囲気に呑まれていたのでしょう。
ほとんど普通の学生と、明らかに異常な子ども。なんとなくそのシチュエーションに楽しみさえ感じていました。
話しているうち、その子は自分の背を指さしながらこんなことを言い始めました。
「妖精だって信じてくんないの? ひどーい!あいかちゃんには見えてないのかな、能力持ちならちゃんとここも見えてるはずなのに!」
私は言葉を失いました。
その子は本当にフィクションのような生き物だったからです。
指をさした先には透明の羽が生えていたんです。
驚く私の顔を見て妖精の女の子は笑い茸を食べてしまったかというほどに大声を上げて笑い始めました。
……今思い出しても恥ずかしさによる怒りが込み上げてくるくらいに。
妖精はひとしきり笑った後、どこからともなくレモンを取り出して私に手渡した後、このように言いました。
これは友達の証であり、気に入ったから私と妖精は友達であると。
そしてそろそろ別のところに行かなければいけないと。
最後にまた会えるから大丈夫だと。
気が付くと、妖精はいなくなっていました。
友達の証。レモンを眺めて考えてもわかりません。
レモンの存在だけはノンフィクションだなぁと考えて誰もいない部屋を見渡したところで私は急に現実に戻されました。
「あれ、今何時!?」
本村愛華の場合②
2020/05/01 up
2022/06/19 修正